前回は、一般の人々が日本の雇用制度について誤った知識を持っているという内容でした。そして、そのことによって会社の命令が絶対という経営者、および上司がはびこる原因にもなるのではないか、という問いでした。問いと記事題名が一貫しておりません・・・お許しください。

 さて、今回は前回紹介した論文を読み終えたのですが、ブラック企業がはびこる理由の一つは、日本の賃金制度にあるといえるでしょう。つまり、終身雇用における年功序列制度です。前回の記事で、一般の人たちは年功序列制度のせいで企業の競争力が損なわれた、という理解がされておりましたが、そんなことはありません。むしろ、年功賃金によって日本の企業は成長した、ともいえるのです。

 年功賃金は、いわゆる属人給です。属人給とは、年齢・性別・正規か非正規か、という属人的な考えに基づく給料のことです。これに対し、主要先進国の給料は職務給で払われています。つまり、労働者がどのような仕事をしたのか、ということに対して払われる給料です。そして職務給は、職務供述書(バイトのマニュアルのようなもの)に書かれていることをこなしていれば、年齢・性別・正規非正規関係なく給料は同じです。

 なんだ、職務給は同一労働同一賃金を達成できているのか!イイネ!と思われるでしょう。しかし、職務給は労働に対してのみ払われる賃金であり、家族手当や家賃手当といったものは支払われません。欧米諸国は社会保障が充実しているから、職務給で労働者は食べていけるのであり、生活に困りません。

 一方属人給は労働者が家族を扶養していた場合、年齢が上昇したり、結婚して子どもができたら家族手当など、労働者のライフサイクルによって給料が上がるため、我が国のように低水準な社会保障でもさほど困ることはないのです。・・・もっとも、それでも給料が低すぎるのは否めませんが。

 さて、この2つの給料は求められる能力も違ってきます。職務給は、「顕在能力」つまり労働者は今何をできるのか、という観点から「この労働者は~な仕事がふさわしいだろう」と仕事が割り振られます。また、職務供述書以外の仕事はしなくてもよいし、休日に仕事しても評価されないため、私的なことに関してまでとやかく言われたりはしない。

 これに対し属人給は「潜在能力」を重視します。つまり、社員に対しこれから会社のために尽くしてもらうため、新入社員に対しては上司が指導を行い、休日も会社のために自己研鑽しなければならない。したがって、私的な時間も上司の期待に応えるべく、生活態度も能力と評価される。たとえば、手書きで封筒に住所を書いて相手方に送る場合、「お前は字が汚い。1か月は他の者に書かせるから、その間家で練習してこい!」というような命令は典型例でしょう。
次回に続く


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