法律と雑記帳

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カテゴリ:社会問題 > 労働

 前回は、属人給が生活態度も能力として評価することで、「モーレツ社員」や「会社人間」といった人たちを生み出し、この能力を経営者側は曲解して労働者をこき使っている、という内容で終わりました。

 では、なぜモーレツ社員や会社人間といったものがそもそも生まれたのか?それは、年功賃金制度が労働者に対し能力開発を促したからです。



年功賃金は「少数精鋭主義」の一員として労働者の能力を日々向上させていくインセンティブを強く刺激する賃金制度であった。さらに能力開発へのインセンティブは,労働時間のみでなく,休息時間や休日の過ごし方にまでおよび,ついには労働者の家庭生活や政治的立場など全人格にまでおよぶ可能性を秘めていた(伊藤2014:125)

 この文章は、なぜ1960年代に高度成長を成し遂げられたのか?なぜモーレツ社員や会社人間が現れ、しまいには過労死や自殺するものまで現れたのか?なぜトヨタやソニーなど世界的な企業に
成長できたのか?という著者の問いに対する一つの結論です。

 年功賃金制度は、上述のとおり、労働者に対し能力開発を強く刺激するものです。そのことによって、会社のために我が身を捧げ、休日もひたすら資格などの勉強に打ち込み、長時間残業もする。それは、会社に認められるための努力であり、また生活態度も能力として評価されるからです。

 年功賃金制度によって能力が向上した労働者は次々と事業を拡大し、トヨタやソニーといった世界的企業にまで成長することができた。また、社員一人一人の能力が高いことから、「少数精鋭主義」と言われるように、正社員の雇用人数は少なくてもよく、結果として一人当たりの負担が増してしまった。


 以上のことから、年功賃金、つまり属人給の長所は
①年功賃金制度は、労働者の能力開発を強く刺激した
②社員一人一人の能力が高くなるため、少人数でもやっていける

反対に短所は
①会社人間やモーレツ社員が生まれやすくなり、過労死や自殺につながる恐れがある
②生活能力も評価されるため、休日でも出勤せざるを得ない状況になりやすく、労働法が守られない
③少人数で部内をまわしていることから、一人当たりの負担が大きい

となるでしょう。
 高度経済成長期は、うまく年功賃金制度が長所として機能していました。しかし、現在は長所が機能しているとは言い難く、会社に尽くすという考えだけが独り歩きするようになり、労働者は経営者にこき使われるようになったのではないでしょうか。結果ブラック企業が社会問題となった。年功賃金制度の悪い部分だけが目立つようになってしまった。ブラック企業が現在はびこる要因の一つでしょう。

前回は、一般の人々が日本の雇用制度について誤った知識を持っているという内容でした。そして、そのことによって会社の命令が絶対という経営者、および上司がはびこる原因にもなるのではないか、という問いでした。問いと記事題名が一貫しておりません・・・お許しください。

 さて、今回は前回紹介した論文を読み終えたのですが、ブラック企業がはびこる理由の一つは、日本の賃金制度にあるといえるでしょう。つまり、終身雇用における年功序列制度です。前回の記事で、一般の人たちは年功序列制度のせいで企業の競争力が損なわれた、という理解がされておりましたが、そんなことはありません。むしろ、年功賃金によって日本の企業は成長した、ともいえるのです。

 年功賃金は、いわゆる属人給です。属人給とは、年齢・性別・正規か非正規か、という属人的な考えに基づく給料のことです。これに対し、主要先進国の給料は職務給で払われています。つまり、労働者がどのような仕事をしたのか、ということに対して払われる給料です。そして職務給は、職務供述書(バイトのマニュアルのようなもの)に書かれていることをこなしていれば、年齢・性別・正規非正規関係なく給料は同じです。

 なんだ、職務給は同一労働同一賃金を達成できているのか!イイネ!と思われるでしょう。しかし、職務給は労働に対してのみ払われる賃金であり、家族手当や家賃手当といったものは支払われません。欧米諸国は社会保障が充実しているから、職務給で労働者は食べていけるのであり、生活に困りません。

 一方属人給は労働者が家族を扶養していた場合、年齢が上昇したり、結婚して子どもができたら家族手当など、労働者のライフサイクルによって給料が上がるため、我が国のように低水準な社会保障でもさほど困ることはないのです。・・・もっとも、それでも給料が低すぎるのは否めませんが。

 さて、この2つの給料は求められる能力も違ってきます。職務給は、「顕在能力」つまり労働者は今何をできるのか、という観点から「この労働者は~な仕事がふさわしいだろう」と仕事が割り振られます。また、職務供述書以外の仕事はしなくてもよいし、休日に仕事しても評価されないため、私的なことに関してまでとやかく言われたりはしない。

 これに対し属人給は「潜在能力」を重視します。つまり、社員に対しこれから会社のために尽くしてもらうため、新入社員に対しては上司が指導を行い、休日も会社のために自己研鑽しなければならない。したがって、私的な時間も上司の期待に応えるべく、生活態度も能力と評価される。たとえば、手書きで封筒に住所を書いて相手方に送る場合、「お前は字が汚い。1か月は他の者に書かせるから、その間家で練習してこい!」というような命令は典型例でしょう。
次回に続く


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 本日雇用主と議論しました。内容はこんなもんです。
 雇用契約時間内に仕事が終わったとする。お前は残ってほかの仕事をやるか、それともすぐに帰るか。それに対し私は「帰ります」と答えました。もちろん、雇用主は目を丸くしました。

 こんなふうに答える私は単に主観的な意味、要するに「ただ単に早く帰って趣味をやりたい」とった考えだけではなく、仕事の生産性や効率性を考えての返答です。この知識は以下のブログの記事を読んだときがきっかけでした。
45年間も労働生産性順位が上がらない理由は『社会人』という呪縛(奴隷と労働 番外編)

 この記事の下のほうにでてくるOECD調査のグラフで、なんと日本の労働生産性は先進国中底辺に位置していることがわかるのです。・・・ヨーロッパより人口が多いのに、日本という国は非常に非生産的な仕事をしているということなのです。時間当たりの労働生産性は、2015年度20位です。1位のルクセンブルクの点数は95.0、それに対し20位の日本は42.1です。この数値を見て「Japanese are crazy!」と思わない人はいないでしょう。

労働生産性の国際比較
国別労働生産性一覧表

 まず、日本の労働時間を比較してみましょう。この労働時間、正社員なのか短時間労働(パート)を含めてのものなのかわかりませんが、とりあえずは内閣府が発表した2013年の労働調査を見てみます。4ページ目のグラフを見てみると、日本の2010年労働時間は年間約1800時間ですが、このグラフの中で一番労働時間が短いとされるドイツは、なんと年間約1400時間ではありませんか。OECD調査にある2013年度時間当たりの労働生産性はドイツが9位、日本は21位です。点数だけをみれば、ドイツが1.5倍効率の良い仕事をしていますね(国別労働生産性一覧表の9ページ目)。

日本人の働き方と労働時間に関する現状 - 内閣府

 なぜこんなにも労働生産性が違うのでしょうか?まだ私にはわかりません。しかし、上司が、周りが残っているから・・・といって残業させる職場というのは、仕事の効率が悪い以外に考えられません。「いやー今週は残業続きだったよーw」「残業をしないと働いていないように思われるのが嫌だ」と考えるのは簡単ですが、今より良い状況になりたいとは思わないのでしょうか。まあもっとも、政府は経営者にべったりですから、労働者をこき使う権利がある、と考えているのでしょうから、この先職場の雰囲気が変わることは長い間ないようにも思われます。
 

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